適応障害の疾患について
「適応障害」とは、特定の環境やできごとに対して大きなストレスを感じた結果、それに適応できずに気分や行動・身体などに症状が表れるものをいいます。
世界保健機構の診断ガイドライン(ICD-10)では、ストレス因により引き起こされる情緒面や行動面の症状で、社会的機能が著しく障害されている状態と定義されています。
環境の変化や周囲との人間関係のよるストレスは誰にでもあるものですが、心身のバランスが崩れ、生活に支障をきたすレベルになると適応障害と診断されます。
漠然とした不安や気分の落ち込みがあるが理由が思い当たらない…という場合は適応障害ではなく、直近の1~3か月以内に明らかな心理的・社会的ストレスがあって発症した人が当てはまります。
ストレスの原因は職場の人間関係や身近な人の死・災害までさまざまですが、同じ状況でも人によって感じ方は異なるため、その人に合わせた対応や治療が重要です。
原因
適応障害では以下の3種類の症状が表れます。
情緒面での症状
ストレスを強く感じる環境にいると、次のような精神状態が起こりやすくなります。
- 抑うつ(憂うつな気分)
- 不安感
- 怒り
- 焦り
- 緊張
- 涙もろくなる
身体的な症状
不安や緊張が高まると、自律神経に影響して身体にも次のような症状が出てきます。
- 眠れない
- 食欲不振
- 疲労・倦怠感
- 頭痛
- 腹痛
- 動悸
- 下痢
- 汗をかく
- めまい
行動面での症状
「ストレスの原因と離れたい」、「しかし逃れられない」、「もっと頑張るべき」…という葛藤から、次のような行動面での症状がみられることもあります。
- 無断欠勤
- 遅刻
- 無謀な運転
- 暴飲暴食
- 口論や喧嘩
他の疾患との関係性
適応障害とうつ病や統合失調症などその他の精神疾患では、不眠や憂うつな気分など、共通の症状が表れることがあります。
適応障害とこれらの病気の大きな違いは、ストレス原因がはっきりしていることと、ストレス原因から離れれば比較的早期に症状が和らぐという点です。
しかし、職場が原因で適応障害と診断されたのち、環境が変わっても6か月以上に渡って憂うつな気分や不眠・興味関心の低下などが持続する場合には診断が変わることもあります。
適応障害の患者さんのうち、5年後には40%以上の人がうつ病などの診断名に変更されているというデータもあります。
適応障害はその他の重篤な病気の前段階の可能性もあるため、しっかりと治療やメンタルケアを行っていくことが大切です。
治療法
世界保健機構の診断ガイドライン(ICD-10)では、「発症は通常生活の変化やストレス性の出来事が生じて1カ月以内であり、ストレスが終結してから6カ月以上症状が持続することはない」とされており、まず考えられる対応としては「ストレスの原因を取り除く・回避する」ことが挙げられます。
軽度な症状には、以下のような環境調整で改善が見られることもあります。
- 家族や上司などにストレスについて伝える
- 過重な仕事の負荷を減らす
- 食事や睡眠の改善
- 気分転換の時間を取る
しかし、ストレスの原因が親子関係など容易に切り離せないものであったり、生活のためにすぐに退職することが難しいなど、簡単にストレス原因から離れられないこともあり得ます。
症状の慢性化やうつ病などへの進行を防ぐため、周囲の協力も含めた環境改善への働きかけと並行して、ストレスの多い環境に対処できるよう、カウセリング等を通じてトレーニングをするのも有効な治療法です。
認知行動療法
ストレスとなる状況に面したとき、それをどのように受け止めるかを指して「認知」といいます。
認知行動療法では、カウンセリングを通じ、無意識にやってしまいがちなその人特有の受け止め方を確認、パターン化していきます。
この思考パターンに対し、より客観的で健全な見かたができるように見直し修正していきます。
問題解決療法
職場や家庭などで強いストレスを感じる場合、そこには何らかの問題が起きているはずです。
それぞれの問題に対し、カウンセラーとともに考えられる有効な解決策を複数挙げていき、もっとも有効な手段を見つけ出すトレーニングを「問題解決療法」といいます。
薬物療法
不安・不眠など、身体的な症状が強く、環境調整や認知行動療法が進まない場合などには、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬や抗うつ薬で改善を図ることもあります。
ただし、適応障害での薬物療法は根本的な治療にはならず、対症療法となります。
あくまでも環境調整やカウンセリングの補助的なものと考えるのが良いでしょう。
参考・引用