統合失調症の疾患について
統合失調症とは
統合失調症は幻覚や妄想という症状が特徴的な精神疾患です。
また、家庭や社会において他人と交流しながら生活を営む機能が障害を受け、「感覚・思考・行動が歪んでいること」を自覚し辛いという特徴を併せ持っています。
以前は「精神分裂病」と呼ばれていましたが、現在は「統合失調症」という名称に変更されました。
発病率
発病率は約100人に1人といわれ、比較的頻度の高い病気です。
国や地域、男女による大きな差はありません。画家のゴッホ、作家の芥川龍之介、夏目漱石などが統合失調症であったといわれます。
「普通の話も通じなくなる」、「不治の病」という誤った印象を持たれますが、こころの働きの多くの部分は保たれ、多くの患者さんが回復していきます。
高血圧や糖尿病などの生活習慣病と同じように、早期発見・治療、薬物療法と本人・家族の協力の組み合わせ、再発予防のための治療を継続していくことが重要になります。
原因
繰り返される発作は不安や恐怖などで起きるものですが、最初に発作が起きる原因はストレスや過労であると考えられています。進学、就職、結婚、肉親との離別などの人生の進路における変化が発症の契機となることが多いと言われますが、同等のストレスを受けても発症しない人もいることから、遺伝要因が影響すると考えられます。
過度なストレスを感じると、脳内の伝達機能を担う物質であるノルアドレナリンが増えて神経が異常興奮します。異常興奮状態になるとストレスに対する防衛反応が過敏になり、激しい動悸や呼吸困難などを引き起こすのです。
また、ノルアドレナリンが増えることによって、精神を安静にして神経をコントロールするセロトニンが不足します。セロトニンが不足すると脳機能の低下や心の不安定さを招いてしまうので、パニック発作へつながる原因ともなります。
発症のタイミング
発症時期は思春期から青年期といわれる10歳代後半から30歳代の発症が多いですが、男女差がみられます。
男性の発症年齢のピークは10代の後半から20代の前半で、女性の場合は二相性がみられ20代(大きなピーク)と40代(小さなピーク)にピークがあります。
遺伝と環境
統合失調症の罹患のしやすさ(脆弱性)は、は遺伝要因が影響すると考えられています。
その他にも、胎児期のウイルス感染や栄養不良、出生時の脳の微細な障害などが影響因子として疑われています。
様々な研究結果を総合すると、統合失調症の原因には素因と環境の両方が関係しており、素因の影響が約3分の2、環境の影響が約3分の1とされています。素因の影響が大きいように思えますが、この値は高血圧や糖尿病といった、頻度の多い慢性的な病気に共通する値と変わりはないようです。
子どもは親から遺伝と環境の両方の影響を受けますが、統合失調症の母親から生まれた子どものうち同じ病気を発症するのは、約10%に過ぎません。
症状
統合失調症は多彩な症状が出ますが、主に幻覚や妄想などの陽性症状と、思考障害や感情の平板化などの陰性症状が出ます。
陽性症状
幻覚の中でも最も多いのが、聴覚の幻覚である幻聴です。
誰もいないのに悪口や噂、批判する声や指示・干渉する声が聞こえます。
妄想には、被害関係妄想、注察妄想、迫害妄想などがあります。
また妄想に近い状態として、考えることが他人に伝わると感じる「考想伝播」や、思考や体験が操られていると感じる「させられ思考」・「させられ体験」などがあります。
これらは自我障害のためにおこります。
陰性症状
思考がまとまらない・途絶するなどの「思考障害」、生き生きとした感情が失われる「感情の平板化」、情緒交流をする能力の低下、行動・作業の遂行能力の低下などがあります。
これらは生活能力の障害となり、時には独居が難しくなります。
治療について
統合失調症の治療法としては、薬による治療と精神科リハビリテーションが代表的です。
精神科リハビリテーションには、デイケア、作業療法、SST(生活技能訓練)、心理教育などのプログラムがあります。
急性期には薬による治療が基本になりますが、早期から薬と精神科リハビリテーションを組み合わせた治療を行うことが効果的です。
経過
統合失調症の経過は、前兆期・急性期・回復期・安定期にわけて考えるとわかりやすいかと思います。
急性期
幻覚や妄想などの、統合失調症の特徴的な症状が出ます。
不安や恐怖を呼び起こす内容の体験である場合が多く、他人との会話ができなくなり、人を避け引きこもることもあります。
また、睡眠や食事のリズムが崩れて昼夜逆転の生活になり、周囲から奇妙と感じられる言動が見られることがあります。
回復期
速やかに治療を開始することで急性期の症状は次第に収まり、現実検討能力も回復し、日常生活をとり戻せるようになります。
激しい症状がおさまった後に疲労感や意欲減退が出て、将来への不安と焦りを感じるのもこの頃となります。
焦ることなく、ゆったりとした無理のない生活をすることが、後の安定期につながって行きます。
安定期
回復期を経て、安定を取り戻す時期です。
ほとんど回復して以前とほぼ同じ仕事や生活の状態へと戻れる場合もありますが、幻覚や妄想などの陽性症状、集中困難などの陰性症状が残る場合もあります。
一般的に、より早期に治療を始めるほど回復の程度が高く、多くの患者さんがリハビリテーションにより社会復帰を果たし、治癒へと向かいます。
予後
長期的な経過をみると、半数以上の方が治癒または軽度の症状が残るのみになっています。
以前と比べ、より継続しやすく脳機能保護作用のある薬が開発されていることから、長期予後はさらに改善される見込みです。重度の障害を残す場合は10~20%であるとされています。
症状が現れてから薬物治療を開始するまでの期間(未治療期間)が短いことが、良好な予後に繋がるといった指摘がされていますので、長期経過の面でも早期発見・早期治療が大切です。
家族と周囲の方へ
治療の中心は本人と家族です。
しかし精神科の病気は目に見え無いため、家族や周囲の方にとってはなかなか理解し難く、家族は「分からない」、本人は「分かってもらえない」というストレスを抱えることになりがちです。
家族や周囲の方が病気やその辛さについて理解を深めることで、そういったお互いのストレスが軽減されます。
また、治療にどういう仕方で協力すればよいかが分かると、そのことが病状や経過に良い影響を与えます。
本人・家族・医療関係者がチームを組み、統合失調症という病気に向き合えることが理想です。
まとめ
統合失調症は再発しやすい病気です。一度症状が落ち着いても継続的な治療が必要になります。
統合失調症のような長期にわたる治療が必要な病気に対しては、自立支援医療制度などの支援制度があります。ご希望の方は、診察時に医師にお伝え下さい。
自立支援制度については、こちらからもご確認いただきます。