睡眠障害の疾患について

睡眠障害とは

睡眠障害とは、睡眠に関連して何らかの問題がある状態を指しますが、眠れない=睡眠障害というわけではありません。
例えば不眠の原因については、環境や生活習慣、精神的・身体的な病気に原因があるもの、薬によって引き起こされるもの等様々です。
他にも、日中に過剰な眠気を催す過眠や、睡眠中の病的な運動や行動、睡眠のリズムの乱れなど、多くの病気が含まれます。

睡眠の重要性

睡眠の問題は、人間の心身の健康にとって非常に重要です。毎日明るい気持ちで意欲的な生活を送るためには、質の良い睡眠が必要となります。
現在は5人に1人の割合で睡眠に問題を抱えている人がいると言われています。文明の進歩とともに夜型社会に移行してきていることから、睡眠覚醒リズム障害なども増大しています。
夜勤による睡眠不足を原因として、交通事故をはじめ原子力発電所における社会的影響が大きい事故等も発生しており、重大な事故にも繋がり得る障害です。

睡眠のメカニズム

地球上のすべての哺乳類が生命維持のために睡眠を必要としていますが、実際にどのように制御されているのかは、これまではっきりと解明されていませんでした。
当初は「睡眠は覚醒レベルが低下すると起こる」という受動的な捉え方をされてきましたが、最近の研究から、大脳の中に「睡眠を起こすための脳」があり、生命維持のために能動的に睡眠を起こしている事が分かって来ています。
現在では、睡眠を引き起こすために2つのメカニズムが働いている事が明らかにされています。

ホメオスタシス機構

まず一つ目がホメオスタシス機構です。
人間は起きていると体内に睡眠促進物質がたまり、そのため起きている時間が長ければ長いほど、深く長い睡眠を必要とするというメカニズムです。
深い睡眠を取る事で様々なホルモンが分泌され、身体の疲労回復と修復が行われます。
ホメオスタシス機構は、睡眠不足になった際に深い睡眠を取り戻すために、睡眠の質と量を調整する機構として存在していると考えられています。

体内時計機構

もう一つのメカニズムは、体内時計機構です。
前日の睡眠量にかかわらず夜のある時刻になると眠くなったり、あるいは徹夜していて途中に何度も眠気に襲われていたとしても、日中になると眠気が薄くなったりします。これは、睡眠が体内時計の制御を受けているからこそ起こる現象です。
ホメオスタシス機構が覚醒時間によって働くことに対して、体内時計機構は時刻に依存していると言えます。体内時計そのものが刻むリズムは24時間周期よりも長いのですが、様々な刺激(食事や運動、仕事や学校などの同調因子)によって修正され、1日の生活に適応しています。

原因

睡眠障害の原因は人によって様々であり、またいくつかの原因が複合している場合もあります。
時差、音や光、寝具の変化などの環境要因によるものであったり、性差、年齢、糖尿病や心臓病などの病気によるものであったり、性格・性質、悩み、ストレスなど精神的要因によるもの等々など、多岐に渡ります。
他にも生活習慣や覚醒作用のあるニコチンやアルコールといった嗜好品、うつ病などの精神疾患が原因となる場合もあります。

睡眠衛生教育

生活習慣や環境を変える事で症状の改善ができる場合があります。

生活リズム

生活リズムと概日リズム(1日周期の生物活動リズム)を同調させることは不眠の解消に役立ちます。毎日一定の時間に起床して(休日と平日の差も1〜2時間くらいまで)、朝日を浴びるようにします。起床直後の強い光は概日リズムを早める効果があります。

食事

胃腸が活発に活動していると睡眠に支障が出るため、夕食は入眠3時間以上前に済ませておきます。
食事の時刻をある程度一定にする事で、消化酵素の働きもその時間に合わせて上昇するため、規則正しく食事を取る事で消化が良くなります。

入浴

人間の体温は午後から夕方にかけて最高になり、夜明け前に最低となります。
体温が下降する時期は入眠がしやすく、上昇する時期は入眠がし難いことが明らかになっています。入浴をして体温を上げておく事で、体温が下がる際にスムーズに入眠ができます。
ただし入眠の30〜60分前に熱いお湯に浸かってしまうと体温が下がりきらず、また熱いお湯は身体への負担と刺激が強いため、就寝前は40度前後での入浴が望ましいとされています。

運動

昼から夕方にかけてへの適度な運動をする事で入眠しやすく、夜間の睡眠の質を高めます。
ただし、夜の激しい運動は体温を上昇させ、交感神経系の活動を活発にしてしまうため、入眠を妨げる一因となります。

アルコール

アルコールには睡眠導入効果があるため、寝酒の習慣がある方も多いかと思います。
しかし、アルコールには利尿作用があるため、中途覚醒・早朝覚醒の原因になりますし、分解途中で生じるアセトアルデヒトにも覚醒作用があるために睡眠の質が低下し、かえって睡眠障害を引き起こすことがあります。

カフェイン・ニコチン

多くの人達がご存知の通り、カフェインには覚醒作用があり、その効果は数時間持続します。
カフェインは、コーヒーやお茶・紅茶以外にも、チョコレートや清涼飲料水などにも含まれているため、注意が必要です。ニコチンにも覚醒作用があり、その効果は数時間持続します。
禁煙用のニコチンガム・ニコチンパッチでも同様のため、注意が必要です。


これらに注意して生活をすることで、軽度の睡眠障害からの回復や予防が見込めます。
しかし、睡眠障害の原因と症状は多岐に渡っており、症状が重い場合や改善しない場合は医師の治療をうける必要があります。
治療内容としては睡眠薬の投与による薬物療法が主になります。

薬物療法

以前使用されていたバルビツール酸系睡眠薬は、耐性、依存性、離脱症状が強く、大量に服用することで死に至ることもありましたが、現在使用されているベンゾジアゼピン系などの睡眠薬は前述のような性質は極めて少なく、正しく服用すれば安全な薬剤となります。
他にも、2010年より使用されるようになったメラトニン受容作動薬は、ベンゾジアゼピン系よりも効果は弱いものの、より安全性が高い薬剤です。この薬剤は体内時計に働きかけることで睡眠を促します。生活習慣の改善となどと組み合わせて使用することで、より高い効果を得られます。
薬剤治療を敬遠する人は少なくありませんが、適切に使用することでより効果的な治療が可能です。

睡眠薬について

ベンゾジアゼピン受容体作動薬

ベンゾジアゼピン受容体作動薬には、ベンゾジアゼピン系睡眠薬と非ベンゾジアゼピン系睡眠薬があります。どちらもベンゾジアゼピン受容体(ω1受容体)に作用しますが、基本的化学構造が異なります。
前者が抗不安作用や筋弛緩作用に関連した受容体(ω2受容体)に作用することに対し、後者はそういった作用が見られません。
ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、服薬してから血中濃度が半分になるまでの時間により、超短時間作用型・短時間作用型・中間作用型・長時間作用型に分類されます。

メラトニン受容体作動薬

メラトニンは松果体で作られ、昼行性・夜行性に関わらず夜間に分泌されます。
入眠促進作用や睡眠持続作用をもたらし、体内時計を修正する作用があります。
入眠時だけではなく、早朝に投与することで体内時計のリズムが後退する事も確認されており、昼夜逆転現象などの治療応用が期待できます。

オレキシン受容体拮抗薬

オレキシンは、オレキシン受容体と結合する事で脳の覚醒を促す神経伝達物質です。
オレキシン受容体拮抗薬は、オレキシン受容体へ拮抗作用をあらわす事で覚醒状態を抑制し、睡眠を促す睡眠薬です。
2020年1月に、ベルソムラ(スボレキサント)に次ぐ2番目のオレキシン受容体拮抗薬のデエビゴ(レンボレキサント)の製造販売が承認されました。

日本国内で使用されているベンゾジアゼピン受容体作動薬
(※非ベンゾジアゼピン系睡眠薬)
作用時間一般名商品名消失半減期
(時間)
超短時間作用型ゾルピデムマイスリー※2
トリアゾラムハルシオン2〜4
ゾピクロンアモバン※4
エスゾピクロンルネスタ※5
短時間作用型エチゾラムデパス6
ブロチゾラムレンドルミン7
リルマザホンリスミー10
ロルメタゼパムエバミール
ロラメット
10
中間作用型ニメタゼパムエリミン21
フルニトラゼパムロヒプノール
サイレース
24
エスタゾラムユーロジン24
ニトラゼパムベンザリン
ネルボン
28
長時間作用型ドラールエリミン36
フルラゼパムダルメート
ベノジール
65
ハロキサゾラムソメリン85

その他の疾患
うつ病
パニック障害
強迫性障害
適応障害
統合失調症
不安障害
双極性障害
月経前症候群(PMS)
うつ病
パニック障害
強迫性障害
適応障害
統合失調症
不安障害
双極性障害
月経前症候群(PMS)