強迫性障害とは
「強迫性障害」はOCD(Obsessive Compulsive Disorder)とも呼ばれ、特定の事柄が気になって、それを打ち消すための行動を繰り返してしまう病気です。
具体例としては、トイレの度に汚れてしまったと感じ、その不安から執拗に手洗いを続けたり、泥棒や火事の心配から、外出前に施錠やガス栓の確認を繰り返したりします。また、不吉な事が頭をよぎると、それを打ち消すために儀式的な行動や、縁起の良いことを繰り返し連想したりもします。
世界的には50人~100人に1人が人生のどこかで強迫性障害を経験するといわれており、男女で発症率の差はみられませんが、成人例では若干女性の方が高率となり、児童・青年期発症例では、男性の割合が高いと言われています。
従来はFreud(フロイト:オーストリアの精神科医)に始まる精神分析の中で「強迫神経症」として据えられていましたが、1980年に改定されたDSM−Ⅲ以降は、神経生物学的な観点からの成因や病態解明、治療法が進展しています。
強迫性障害の症状
強迫性障害では、特定の考えやイメージが自分の意思に反し何度も頭に浮かんできて強い不安や不快感が起こり、それを打ち消すための行動を繰り返してしまいます。
この特定の考えのことを「強迫観念」、繰り返しとってしまう行動を「強迫行動」といいます。
代表的な強迫観念と強迫行動の例としては次のようなものがあります。
強迫観念 | 強迫行動 |
---|---|
手が汚れている | 何度も手を洗う |
部屋の鍵や戸締りができていない気がする | 何度も確認する |
物が順番通り並んでいないと悪いことが起こるような気がする | 何度も並べ直す |
刃物が視界に入るだけでけがをするのが怖くなる | 刃物を隠したり遠ざけたりする |
外出すると帰宅後に全て着替えてシャワーを浴びなければ心配という症状の人では、外出が億劫で引きこもりがちになってしまうこともあります。
強迫性障害には、自分自身が手洗いや確認作業を繰り返す「自己完結型」と、家族に頻繁な戸締りの確認などを要求する「他者巻き込み型」があり、一般的には後者の方が重症です。
単なるきれい好きや他の精神疾患との違いは、「本当はここまでする必要がないのに」と本人が理解していながらやめられないという点です。
程度が強く日常生活や社会生活に支障をきたす場合は治療の対象となります。
精神科医が解説・強迫性障害の治療法
強迫性障害(OCD)は古くから知られている疾患ですが、ごく最近まで「薬で治す病気」との認識が低い疾患でもありました。
強迫性障害は典型的な神経症とされ、生育環境や性格傾向、ストレスイベントへの暴露などの心因が主な原因であり、治療方についても精神分析療法が主とされていた時代が長かったという歴史があります。
自分の意思に反して繰り返し執拗に沸き起こる強迫観念と、自分では不合理と感じながらも繰り返さなくてはならない強迫行為に葛藤する様は、病因として心理的・社会的な側面が強いという印象を与えるのは当然かもしれません。
実際に強迫性障害の方の多くは「親が神経質に育てた」、「性格が几帳面過ぎる」、「思春期にトラウマがあった」、など心因や環境因と考えられている方が多いでようです。
こちらが「脳の機能的な病気です。薬の服用とトレーニングで改善する可能性があります。」と伝えると、一瞬「えっ?」という反応が見られる事が多いです。薬を使う病気とはまだ一般的に認識されていないのです。
DSM-Ⅲが登場し、神経症というカテゴリーが消滅し、それとともに生物学的精神医学という概念に向かって潮流が大きく変化し、時を同じくしてアナフラニール(クロミプラミン)が治療薬としての有効性が知られるようになってからは、改善率が飛躍的に向上しました。
ここでは、強迫性障害の標準的な治療法を解説していきます。
薬物療法・精神療法ともに、効果が出るまでには個人差があり、数か月以上かかることもあります。
薬物療法と精神療法を組み合わせ、診察やカウンセリングなどを通じて1人1人に合わせた強迫性障害の治療を進めていきます。